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第4回タイトル


ペンタックスSP-2
ハッセルブラッド500EL。
登場は1965年だから、もう40年近い時が過ぎていることになる。基本ボディである500Cに無理やりモータードライブを取りつけたという感じがすごいが、なかなか存在感のあるカメラだ。現行の555ELDまで、その基本形態は変わってはいない、というか変えようがないともいえる。500Cや500CMよりもかなり廉価に売られていて、現在では、かなりお買得感のあるハッセルという印象がある。発売当時の価値からすれば、夢のような話である。
ハッセルブラッド社 http://www.hasselblad.com

ハッセルはプロのカメラなのか?

 「ハッセルブラッドはプロカメラマンのカメラである」という認識は、ずいぶんと昔に崩壊してしまっている。一眼レフカメラや中判カメラが、特別 なものとして考えられていた最後の年代とは、おそらく1960年代初頭あたりまでであって、その当時のハッセルの価格というのは、たしかに天文学的なものであったはずだ。
 当時のハッセルの価格表などを見てみると、現行の500CWあたりと価格がさほど変わらないのである。これがタマゴの話ならば物価の優等生ということになるのかもしれないが、ことカメラとなれば、生活には必ずしも必要ではない、道楽のためのアイテムなのであるから、最近では時を経るごとに、その価格は安くなって当たり前と思われたりしている。これが顕著な例はデジタルカメラであろう。
 カメラの販売価格が下落してゆくのは、もしかするとカメラメーカーにとっては不幸なことなのかもしれないけれど、仮に60年代当時と同じ価値観のまま、カメラの値段がそのままスライドしたとしたら、私などは永久にハッセルもライカもローライも 知らないまま人生を送ることになったはずである。(もっともそのほうが幸せだったのでは、という話もある(笑)。)
プロに使われなくなったハッセル

 3、40年前では、たしかにハッセルはプロに使われるカメラという地位 にあったはずで、実際にこのころのカメラ雑誌の口絵などで使用カメラデータを確認してみると、プロの愛用者が非常に多いことがわかる。中でも売れっ子写 真家には必ずといっていいほど使われていたから、プロの世界に対して、写 真界というのは芸能界的な感じがして、なんと雅な職業なのであろうと思っていた。ところがどうであろうか、21世紀の今では、ハッセルを使うプロカメラマンを探すほうが難しいくらいである。 いったい、何が起ったのであろうか。
 これを「私のまわりでは」、という注釈をとりあえずは使いたいところだが、こう断言してしまうのは、それなりの理由がある。
  先だって、都内で貸しスタジオで撮影したのだが、そこのスタジオアシスタントに私の使用するハッセルのフィルムチェンジをお願いした。ところがフィルムを入れる様子を観察していると、どうも手慣れた感じではないのだ。不安になって聞いたところ、ハッセルのマガジンを扱うのは久しぶりであるという。
  もちろん、そのスタジオの名誉のために言えば、個々スタジオマンのスキルの問題 ということもあるのだが、絶対的にハッセルを扱う数というのは減少しているという。プロカメラマンが使う中判カメラで多いのは、マミヤRZ、RBが圧倒的らしい。  
  つまり、6×6という正方形フォーマットは実際の印刷物にするにあたって、必ずどちらかの辺がトリミングされ、長方形にされてしまうために、ハッセルを使う場合は最初からトリミングを想定した構図を作らねばならないので、使用を敬遠されてしま うという傾向にあるらしいのだ。もっとも昔のデザイナーに言わせてみれば、トリミングによって縦でも横でも使うことができるフレキシビリティのあるものとして見ていたところがある。
ペンタックスSP-2
最初期タイプのディスタゴンC60ミリF5.6。レンズのヤケによって、かなり黄色味が かった描写をするが、これがかえって良い雰囲気となる場合がある。画面 中央は実に 高い画質を得ることができる。モノクロの調子もすばらしい。
 
ペンタックスSP-2
「500EL」表記があるボディであったが、なぜかファインダースクリーンの交換をすることができる。ライカあたりなら珍品扱いにでもなるのだろうが、ハッセルではそ うはならない。アキュートマットスクリーンに取り替えれば、現行のハッセルと何ら変わらないカメラになる。
 
ペンタックスSP-2
背面はM6TTLという雰囲気がある。一見新しいようでいて、何も変わりがないというのがライカ的なのだ。
6×6フォーマットの意味
 
 マミヤRZとかRBは優れたカメラには違いないが、私に言わせてみれば、どことなく色気に欠けるようなところがあって、正直に言うと、あまり好きなカメラではない。 これを逆にいえば、私自身もこれらを仕事用の第一線級のカメラとしてしか認めていないようなところがある。だから、仕事以外の時間にこれらのカメラを使って何らかの写 真を撮ろうという欲望も、まったく湧いてこないのである。
 まあ、依頼主やらデザイナーやらが扱いやすい「素材」を提供するのがカメラマンという役割であるとするならば、これは無理もないことであるし、仕事はあくまでも効率重視でなければならないのだ。自分自身もとより、まわりのスタッフにも、ムダ な仕事を増やしてはいけないという親切心から、カメラマンは6×7というフォーマットを最初から選ぶということらしい。
  真面目で、きちんと効率よくお金を稼ごうというカメラマンは上記のような装備で仕事をするわけだが、私のような二線級のカメラマンとなると、そう素直ではなくなる。仕事カメラとしても、ある程度愛すべきものでなければ、仕事に対する意欲あるいは自分のモチベーションを維持することができないのである。だから効率の悪いハッセルを使うことになるのであるが、これはもしかすると現実からの逃避に近いものがあるかもしれない。


ハッセル使いの儀式
 
 21世紀になっても相変わらずハッセル500シリーズには約束事が残っている。撮影者側に約束を強いるのである。
 すなわち、カメラのバックシャッターをチャージさせ、レンズ側のシャッターもチャージされていないとレンズの脱着はできない。ハッセル500シリーズの場合は、カメラ本体とレンズとが、撮影下に置かれていようとなかろうと、常に全て準備完了状態にあることが基本となっている。
カメラ好きな方々というのは、このチャージされた状況というのが気に入らないらしく、見えもしないカメラやレンズ内部のスプリングが力を溜めて張っている状況を想像して、妄想してしまい、いたたまれない気持ちとなり、その力を何とか開放させて、はやく楽にさせたくなるらしい。
  その結果、どうなるか。久しぶりに可愛がってやろうと、防湿庫から取り出した 500CMとプラナーT*80ミリF2.8レンズ、は当然、チャージされていない状態である。 これを忘れてしまい、無理に結合させ、レンズが取り外せなくなるという事故が起きる。これにより、修理屋さんを喜ばせる結果 となるわけである。
  普段、使っていないからこういったことになるのであるが、ハッセル側は、こうし たメンテナンス市場にも、きちんと利益を与えるために、この古臭い機能を維持させているのではないかと勘ぐりたくなるほどである。まったくもって不思議なことなのであるが、ハッセルを使うというのはこうした儀式めいた部分までを許容するということを同意しなければならない。
  かくゆう私なども実は人のことは言えない。過去、あわててチャージしていないボディにレンズを無理に装着してしまい、にっちもさっちもいかなくなったことがある。これはカメラ、レンズを杜撰に取り扱っている報いというものだろう。
  これに少し言い訳をするならば、撮影に入るとカメラの取り扱いに注意を払わなくなる。おそらくレンズ交換か何かの拍子に、チャージをし忘れてしまった事故であろうと想像される。もっともどういった理由であろうが、これはハッセル使いには恥ずかしいことである。


廉価な500EL
 
 最近になって、やっと自分の杜撰な性格がわかりはじめた(笑)私が、最近主に使っているハッセルは500ELである。御存知、500Cボディに無理矢理モーターを取りつけたような無骨なカメラなのであるが、この利点とは、ボディ側が常にチャージされた状態に置かれるということである。このため、上記のようなレンズが外れなくなるという事故はよほどのことがない限り起らないし、安心して使用することができる。
  通常の500シリーズはクイックリターンにもならない旧方式カメラだが、モーター 内蔵のELシリーズは、初期モデルからシャッターを切ったあと電動の巻き上げによって、ミラーがちゃんと復元するので、通 常の一眼レフという感じで使うことができる、というか、ここでやっと普通 のカメラになれたという感じがするのだ。
  面白いことに、旧500EL系ボディは、びっくりするほど廉価で入手することができる。なんと500Cや500CMよりもその価値は低いのである。私の所有ボディなど、コンパクトデジタルカメラの約半分くらいの価格で、中古カメラ店では場所ふさぎとなって、邪魔物扱いされていたものである。昔のステータスはどこへ行ってしまったのだろうか。
500ELの復活
 
 価格が安いのは、500ELXまでのボディは充電式電池を使うことが前提となっているためである。電池は今でも入手できないことはないのだが、充電器が失われているとか、とかく中古ボディには不備が多いのである。これが価格を安くしている原因ともなっているのだ。
 ところがだ、メディアジョイにて輸入販売しているアクセサリー、「ELコンバータ ー」を使い、9ボルト電池を使うと、御機嫌な作動感覚となる。しかも、単三乾電池を使う553ELXとか555ELDあたりよりも、巻き上げ速度が速くなるようなのだ。これには驚いた。
 かくして私の500ELは完全復活を遂げ、仕事にも私事にも大活躍中である。さらに、これはまったくの偶然なのだけれど、ありがたいことに私の所有ボディは「500EL」という表記がされているのに、ファインダースクリーンが交換可能なのである。
 500Cの表記ボディにも一部こうした仕様になっているボディを確認しているが、 500EL、500Cの最後期型のボディはいずれも500EL/M、500CMと同じ機能を持っていたらしい。
 これも、最新のアキュートマットフォーカシングスクリーンを取りかえれば、最新 のハッセルとほとんど遜色ない使い勝手と、性能になるというわけである。
Cレンズの感動
 
 旧タイプのハッセルはいずれも作りがよいけれど、これに似合う専用ツァイスレンズはやはりコンパーシャッター採用のCレンズである。しかも白鏡胴のものが望ましい。
 仕事ではシャッターの精度とかシンクロの問題などで、新しいレンズを使うことが多いのだけれど、プライベートな撮影では、これらはなるべく持って歩きたくないものである。正規輸入代理店ではすでにCレンズのメンテナンスは妖しくなってきているのであるが、日本には優秀なハッセルリペアマンが多いので、まだまだ現役で使うことができる。とくにT*コーティングでなければならないなどという趣味的なこだわりがない私だから、これらのレンズも最近では廉価で入手できるようになったことが嬉しい。
 ハッセル用の旧ツァイスレンズの描写特性はさすがに現行品と比較すれば、コントラストが低く、逆光にもやや弱い感じがあるのだが、現在のレンズよりも複雑に光をトランスレートしているように思える場合があって、とくにモノクロ写 真などの場合、感激するような階調再現がもたらされることがある。旧レンズだからと言って決してこれは侮れない。このあたり拙著「使うハッセル」(双葉社)において、CFレンズとの撮り比べを行い、それぞれの描写 特性を比較しているので参考にしてほしい。
 このように、ハッセルブラッドというのは、趣味と実用の境界というか、その垣根 がライカなどよりも低い感じがする。私など、ライカを購入するよりも、ハッセルを購入した場合は、もしかすると購入した金額のモトくらいはとれるのではないかなどと、下世話なことを考えたりしている。
 もちろん広い世の中であるからハッセルコレクターと言われる人も存在はしているのだろうが、その数はさほど多くはないのではないか。何よりも街中で旧型のハッセルなどを使っている人をみると、かなり知性が高いような印象をうける。このあたり、極端に偏差値の低い私は憧れてしまう。
 と、なれば手を入れるためにお金をかけたとしても旧型ハッセルを長く使ってやろうという気にさせるのである。
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