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 『アサヒカメラ』2004新年号の連載「ワタクシ的名機」でも書いたのだが、35ミリのフィルム一眼レフカメラを使う仕事の場合、最近はライカの一眼レフ(ライカフレックスとRシリーズ)システムを意図的に使うようにしている。
 日本では、レンジファインダーのM型が通常のカメラシステムとして認知されているライカだから、同行の編集者やADが、私がLEICAあるいはLEICAFLEX名の一眼レフカメラを使っていることを現場で知ると、様々な反応を示すので面白い。

 

ライカ一眼レフの世間的評価

 もっとも、仕事のできる編集者というのは、同行カメラマンの機材に注意など払わないものであるが、私の場合はこうしたウェブにまで、カメラに関する文章を書き散らかしているためだろうか、カメラ好きカメラマン(注:業界的にはかなり恥ずかしいこととされる)というのが仲間内に知られてしまっているので、共に仕事をする編集者たちの多くは、今回は、アカギがどんなカメラで撮影するのかを興味深く観察している(ような気がする)。これは意識過剰というものかもしれないのだが。(笑)
 編集者は私の一眼レフに「LEICA」のロゴを見つけると、まず第一声は「一眼レフもライカなんですね!」と大体の場合は話しかけてくる。しかし、その背後には「ライカ好きだから、一眼レフまでライカを使うモノ好きな奴」という隠喩としての嘲笑を含んでいるのではと考えられる。次いで、「レンズがいいからですか?」とたて続けに言われるのが普通である。

 

描写特性を語る難しさ

 ライカ一眼レフ用のRレンズの描写特性が良いというか、個人的にかなり気に入っているのは本当なので、詳しくは後編に詳述するけれど、他人とのライカレンズ談義などというものは、お互いを知り、胸襟を開かないと、本音で話などできるものではない。
 もっとも、レンズ談義は酒場においての仲間内でのいいかげんなヨタ話が、実は一番面白いのである。最終的にアウトプットするイメージなくして、どのような描写をするかという論議は無駄なことなのだ。
 これは余談だけれど、雑誌の新製品レポートなどでは限られた時間(最近では受け取ってから6時間以内に撮影して返却という史上最短の記録を作った)の中で限られた条件で撮影して、一応の評価をしなければならない。もちろん天気や、こちらの予定はおかまいなしである。
 これではレンズの特性を知るといってもほんの一断面にしかすぎない。もちろん仕事として行うからにはこちらも、ある程度の結論を出すために必死に撮影するのだが、本来は様々な条件下で撮影を行い、相当に使い込んでみないと細かいところまで描写特性を述べるところまではいかないものだ。
 所有するレンズの解像力チャートやMTF計測の数値性能は気になるものなのだが、これを購入の尺度の全てとしてしまうのも情けないものである。だから、普段は写真を撮ることのない人たちに、レンズ特性のことを聞かれても適当に話をごまかしているのが普通である。

 

ライカ一眼レフの精神

 AF一眼レフどころか、デジタル一眼レフをあたりまえのように仕事で使う時代において、ライカの一眼レフのように巻き上げレバーがついた完全マニュアルの一眼レフカメラを使うというのは、これだけで変人扱いされて当然なわけだが、こちらとしても、わざわざフィルムを使って(最近ではこうした表現を本当にしたくなるのだ)仕事をするのだから、自分の好きなカメラを使わせろ、ということも言いたくなる。
 私に必要なのは機材の性能とか特性よりも背景に潜んでいる「精神性」なので、一眼レフにおいても「ライカ」を使いたくなるのである、そういった意味では、ライカレンズの描写に心底惚れて使うなどというこじつけがないだけに、素直なカメラ趣味人間の部類に属するはずである(笑)。
 あえて時代遅れのカメラを使うのは物好きと思われても仕方はないのだが、AFにしろ、しょせんは最終的な合焦確認は肉眼で行わなければならないわけだし、AEにしても、撮影者のイメージに即した露光が必ずしも行われるわけではない。つまり便利な機能を搭載したといっても、それは単なるツールがひとつ増えたというくらいの認識でしかないわけである。

 

ライツと日本のお家事情

 さて、本題のライカ一眼レフについてである。ライツは1954年に登場したM3をはじめとするMシリーズのレンジファインダーカメラの出来があまりに良く、営業的にも満足のゆく結果を出していた。このため一眼レフの開発に遅れたというのが、定説ということになっている。
 タイムリーにその時代を生きたわけではないので、これは事実なのであろうが、私にとっては資料的風聞に属するわけなのだ。ライツ技術陣は別に一眼レフの研究をまったく無視していたわけではなかろう。
 ライツは、保守的などと言われてしまうところがあるが、これは最近のことであって、ライカM3が世界に衝撃を与えたことからもわかるとおり、ある時期までは、先駆的なカメラの開発を行っていたわけである。
 ライカを超えるレンジファインダーカメラの製作を目指していた日本のカメラメーカーは、ライカM3を超えるカメラを作ることを諦めたのか、それとも時代を見越してか、途中でこれに見切りをつけて一眼レフの開発に邁進する。
 ライツの一眼レフ開発は遅れていたのは事実だから、ライツと日本のカメラメーカーの一眼レフ開発技術、製造スキルの差は開いてしまうことになったわけだ。

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時代遅れのライカフレックス

 初代のライカフレックスは、1964年に登場している。ファインダーを見ただけでMシリーズライカの特性を引きずったことがわかるカメラである。これはとても不思議なことである。
 マット面がなく、空中像でファインダーを観察し、ピント合わせは中央のマイクロプリズム部分で行うしかない。この方式はたしかに視野は明るいけれども、一眼レフの特性である被写界深度の確認もできないし、ボケ量もわからない。しかもファインダー周辺部でのピント合わせができないのだ。これではM型ライカと同様な使い方しかできないわけだ。ファインダー上でのボケかたと、実際のボケは、今のようにファインダースクリーンの精度が上がってもかなり違うのが普通だから、開発者はこのこともあって、通常のマット面を採用しなかったのかもしれない。
 ただし、ピント合わせがファインダーのまん中でしかできないとなれば、ピントを合わせた後に、カメラを大きく動かしてフレーミングを変更してしまうとコサイン誤差によって、ピントを外してしまうというリスクがあるのもMシリーズライカと同様である。
 つまりライツは、一眼レフの最も大きな特性を重要視しないどころか、捨てていたのである。Mシリーズライカと共用しても、違和感なく使うことができるという狙いがあったのかもしれないが、今では詭弁としか思えない。もしかするとM型ライカの生霊が一眼レフ開発者を洗脳していたのかもしれないのだ。
 ライカフレックスは、他社ではすでに当り前となっていたTTLメーターをも採用せず、外部測光方式を採用していた。面白いのは、初期のレンズではシルバークローム仕様の鏡胴のレンズが存在したが、ライカフレックスの外部測光方式では、シルバークロームメッキの反射によって誤差が出てしまうため、これをすぐにとりやめ、ブラッククローム仕様のものに変更している。

ライカフレックスSL MOT
ライカフレックスの中では一番気に入っている機種である。デザインはクラシックだが使ってみるとなかなか保持しやすい。


 こうした仕様は、ライツ独自の味つけを一眼レフにおいても行おうと試みた開発陣の思想なのだろうが、先に述べた通り、いかんせん時代遅れのものではあるし、決して使いやすいものとは言えないだろう。しかし、ヘソ曲りの私としては、このファインダー像、今の没個性の一眼レフが並ぶ時代では、逆に新鮮に感じてしまうのだ。細部にわたるまでの作り込みの良さとも相まって、最近は本気で使うために購入を考えているアブナイ状態になっている。
 誰か私を止めてほしい。

 

※写真をクリックすると、大きなサイズで御覧頂けます。

 

普通の一眼レフSL

SLのシャッター速度ダイヤル。初代ライカフレックスから1/2000秒の最高速シャッターを実現しているのは大したものである。シャッターボタンとシャッタースピードダイヤルが同軸上にあるので、ファインダーを覗きながらでも操作しやすい。予備角レバーを引き出すとメーターのスイッチが入る。SL MOTの場合はこのスイッチは省略されている。

 真っ当なカメラと言うと語弊があるかもしれないのだが、21世紀の今、何の問題もなく使用できるのは1968年に登場するライカフレックスSLからである。通常のマット面のファインダースクリーン、TTLメーターの採用などで、やっとライカ一眼レフも「普通に」なったのだと感じさせる機種だ。ただし、このSLからすでにファインダーは青味がかっている。これは今のR9まで続く伝統のようなものである。ライカ社はファインダーが青いのは、ピント合わせをしやすくするためだとアナウンスしているのだが、ファインダーの色づきがピント合わせの精度に関連しているとも思えないし、肉眼で観察している被写体の色と、ファインダー像の色が異なるのは気持ちのよいものではない。
 最近はさすがにSLを仕事に持ってゆく機会は大幅に減ったのだが、それでも時折、無性に使いたくなることがあるから不思議である。全体のもっこりとしたデザインと相当に重い重量はフットワークに欠けるように見られてしまいがちだが、各部の操作感触はさすがで、手が操作感触を覚えていて、私の意志とは関係なくSLを欲していることがある。また耳も、やや残響するあのシャッター音を聞きたがっている時があるのだ。
 SLは経年変化によって、プリズムに腐食が見られる個体も多くあるので、購入に際しては注意が必要だが、比較的廉価に売られていることが多いのでお勧め機種である。ボディの作り込み、細部の部品にいたるまでの仕上げも、とても美しい。

 

ヴェッツラーのSL

SLのマウント部。 この時代では、ライカフレックスマウントと称するのかわからないが、ライカの一眼レフは時代を経るごとに基本形状はそのままでピンが増えてゆく。装着はできても機能制約があるから相互互換というよりも片側互換という感じもする。SLのレンズ着脱ボタンは初期タイプはプラスチック製だったが、経年変化で欠けてしまうので、メンテナンスに出すと金属仕様のものに換えられてくることが多いようだ。

 私の愛用の一台は、ライカ社取材のおりに立ち寄ったヴェッツラーのカメラ店で購入したものである。カメラ店といっても日本で言う、駅前にあるスピードプリントショップみたいなところだったのだが、店主が面倒臭そうな感じで応対してくれたことを思い出す。突然現れた日本人が、古いライカ一眼レフを欲しがっていること自体を不思議がっているような感じであった。
 値段は日本の相場とまったく同じであったのが不思議だったが、ヨーロッパの中古カメラ屋さんで値段交渉をすると、日本は東京・銀座にある有名中古カメラ店の名前が出てきたりするので驚いてしまう。
 どうやら、最近の海外のカメラ店は、日本のカメラ店のサイトをみて、値段確認をしているらしい。どこそこの国では、ライカが安いというゴシップ話は、もはや過去のことになってしまったと言えるであろう。インターネットによって世界は狭くなったが、カメラの価格が万国共通になってしまったのはあまり愉快なことではないし、旅先での買い物の楽しみはなくなってしまったと言ってよい。
 私がどうしてもこの店で売っていたSLにこだわったのは、ライツ発祥の地、「ヴェッツラーでライカを買う」ということを目標に掲げたというこの一点のみだからである。ヴェッツラーには数軒のカメラ店、それもライカ専門店も1軒あるのだが、恥ずかしながら、私の経済力で買うことができるM型ライカを発見することが、ついにできなかったのだ。ちなみにライカ社取材のおりに、購入したSLのチェックをお願いしたら、全ての項目でオーケーが出た。これは正直嬉しかった。SLの堅牢さは本物であったのだ。

 

SL MOTを使う

モーターを装着すると、違法建築の建て増し住宅みたいになる。その厳つい姿はかなりの迫力である。作動音も凄まじい。「被写体を選ぶカメラ」となるわけだ。モーターを使用する場合はモーター側のシャッターボタンを使用する。フィルムの自動巻き戻しなどの機能はない。

 SLにはブラックペイントボディもあって、これはいまだに発作的に欲しくなる。厚みのあるペイントボディの美しさはなかなかのものだ。ライカM4あたりのブラックペイントボディよりも廉価ではあるものの、最近では価格が高騰気味である。またSLにはモータードライブ仕様のもの(SL MOT)もあるが、モードラ好きの私はこのやたらと背が高く、大きいセットを所有している。このモデルではセルフタイマーが省略されていて、デザイン的にもよい。また、ライカ一眼レフのいずれもが、小刻み巻き上げをすることができないので、屁理屈を言えばモータードライブの存在価値は高いのである。
 ただし、モーターの作動音は壮絶な、と言いたくなるほど大きく、まるで金属物質の破壊音か、機関銃の乱射音である。スナップショットにこれを使うというのは不可能だろう。その作動音の大きさからすれば、場慣れしたファッションモデルとか、アクの強そうなベテラン俳優さんを撮影する時などに是非使ってみたいと考えていた。じつは、過去いくたびかこの機会が訪れたことがあるのだが、いざとなるとさすがにSLモーターを持ち出す勇気はなく、いまだにこの夢は叶えられていない。深夜に一杯やりながら、けたたましい作動音を聞いて、悦にいっていたりする。時折こうした癒しをすることでSLモーターは存在価値がでてくるのである。もしかするとこれが正しい使い方かもしれない。
 実際の撮影ではモードラは取り外して携行しているSL MOTだが、単体での使用で少しだけ気になるのは、巻き上げレバーにおいてのメータースイッチが、SLモーターの場合は省略されているため、常に電源が入ったままになっていることだが、Cdsは消費電力が少ないため、さほど実害はないようだ。と、言うか私の所有するメカニカルカメラの場合、まともに電池が入っているほうが珍しいくらいなのだが。

 

ライツ製最後のメカ一眼レフSL2

SL2 MOT
直線を多用したデザインのため、現代的な感じとなった。メッキの仕上げ等も上質で、高級感にあふれる。しかし、私はSL2を使っている人を、日本でも海外でも街中では一度も見かけたことがない。台数が少ないのかコレクターズアイテムになっているからだろうか。

 SLの改良機SL2は1974年に登場する。SLの舟のようなアールのついたデザインから、より直線的で現代的なものとなった。重量は相変わらず重いけれど、今でも人気機種である。これはSL2が純粋なライツ製の最後の横走りのメカニカルフォーカルプレーンシャッター搭載のカメラということ、製造期間は、わずか2年たらずだから、市場にある絶対数が少ないことが理由となっているようである。
 SLとの大きな違いは、絞りやシャッター速度のファインダー内表示、いわゆる情報集中化を目指したことであるが、イルミネーターまで内蔵されるなど、かなり凝った機能もある。最も、これらの機能がどのくらい撮影に役立つかといえばさしたることもないわけだが。
 SL2ではメーターの感度も上がり、より低照度下での測光も可能となっている。ファインダーの測距はスプリットマイクロプリズム方式である。SLとくらべるとファインダーの青みはやや軽減されているようだが、完全にクリアなものではない。
 SL2にはブラックペイントボディは用意されておらず、ブラッククローム仕上げとシルバークローム仕上げがあるが、後者のほうが数が少ないと言われている。SLと同様にモーター専用ボディのSL2 MOTボディもあるが、これはブラッククロームボディのみでセルフタイマーがなく、巻き上げレバーの予備角によるメータースイッチが省略されているのはSL MOTボディと同じである。
 SL2の操作感触じたいはSLのそれに近いのだが、内部構造は、マウントにあるピンやレバー、ミラーを抑えてある金具などを見ただけでも、なかなか複雑そうであることがシロウト目にもわかる。
 全体のユーザーインターフェースはライカフレックスからさほど変わってはおらず、共用しても混乱することなく使用できる。とくにライカフレックスから踏襲されているシャッターダイヤルとシャッターボタンが同軸上にあるのは、ファインダーを覗きながら操作できて、なかなか使いやすい。
 76年にライカフレックスSL2は製造が中止され、新しいコンセプトのRシリーズに方向転換が行われるわけだが「LEICAFLEX」名も終わってしまうのは不思議なことである。
 レンジファインダーのライカファンの方々も一度、ライツ時代の一眼レフを使ってみるとよい。機能の古さや重量があることなど、使いづらいところはたしかにある。使うためにはそれなりの覚悟が必要とされるわけだが、使い込んでゆくと、ライカの魅力の深淵まで迫ることができるはずである。最近では、デジタル一眼レフカメラの席巻もあって、いずれの機種も廉価になってきているので、購入のチャンスであると思う。同時に交換レンズも値下がり傾向であるのは、ライカ一眼レフユーザーにとってはとても嬉しいことだ。
 次回はライカフレックスの後に登場するRシリーズの話をしたいと思う。

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